今回は「Workslop(ワークスロップ)」という言葉を紹介します。
「slop」には「残飯」「食べ残し」のような意味があります。そのため最初に聞いたときは、「また汚い感じのスラングが出てきたな」と思ったのですが、実はAIと仕事について考えるうえで、なかなか真面目な言葉です。
前回紹介した「ミートプロキシ」とも少しつながる話ですが、今回は特に「個人最適」と「全体最適」という視点から、AIによる効率化について考えてみたいと思います。
Workslopとは?
Workslopとは、見た目はそれらしいものの中身がスカスカ、相手に理解や修正の負担を押し付けるAI生成物を表す言葉です。
BetterUp Labs(働き方や人の行動を研究する研究機関)とStanford Social Media Lab(スタンフォード大学のAI・デジタルコミュニケーション研究機関)による調査では、Workslopを受け取った人が、その処理に平均で約2時間を費やしていたという結果も出ています。
AIを使った本人は仕事が速くなった。でも、その成果物を受け取った人の仕事は増えた。
本人だけを見れば効率化に成功しています。しかし、周囲や所属部署や会社などの単位で見ると本当に効率化できているのでしょうか。
「1時間の仕事が5分になった!」は、本当に効率化?
例えば、石川さん(仮)が、これまで1時間かけていた調査をAIを使って5分で終わらせたとします。石川さんからすると55分の削減です。
ところが、AIから出てきた長い回答をそのまま上司の中村さん(仮)へ送ったため、中村さんは内容を読むのに20分かかりました。分からない部分を石川さんに確認すると、本人もAIの回答を十分理解しておらず、結局、中村さんが自分で調べ直すことになりました。
石川さんだけを見れば、1時間の仕事が5分になっています。これは「個人最適」としては大成功です。
しかし、その結果として中村さんの仕事が増えているのであれば、チーム全体ではどうでしょうか。
これでは、石川さんの時間は減っていても、その時間を周りの人に付け替えただけかもしれません。
「自分の作業時間が減った」と「仕事全体が効率化された」は、同じではありません。
個人最適ではなく、全体最適で考える
「個人最適」とは、自分自身の作業や効率だけを良くすることです。
一方で「全体最適」は、自分だけでなく、その仕事に関わる人やチーム、会社全体まで見て、より良い状態を考えることです。
AIは個人最適をとても簡単にしてくれます。
文章を作る。調べる。要約する。資料を作る。
これまで時間がかかっていた作業を、一気に短縮できます。
ただし、その結果として、
- 相手が長い文章を読むことになった
- 内容が分からず確認作業が増えた
- 修正や作り直しを相手に任せることになった
のであれば、それは「自分だけが楽になった状態」かもしれません。
AIによる効率化を考えるときは、「自分の時間が何分減ったか」だけではなく、その仕事に関わる人全体の時間が減ったかまで見る必要があると思います。
AIを使ったうえで、ひと手間加える
前回紹介した「ミートプロキシ」も、今回の「Workslop」も、根っこにある問題は少し似ています。
AIが出したものをそのまま相手に渡してしまうのではなく、そこで人間がひと手間加えることが大切だと思っています。
例えば、これまで1時間かかっていた調査なら、
- 5分でAIに調べてもらう
- 10分かけて内容が正しいか確認する
- 5分使って相手に合わせて整理する
これでも合計20分です。
1時間から20分に短縮しながら、AIの回答をそのまま渡すよりも、相手にとって分かりやすく、使いやすい形にできます。
AIによって浮いた時間の一部を、「理解する」「確かめる」「考える」「相手に合わせる」ために使う。
このひと手間が、自分だけの個人最適で終わらせないために大切なのではないでしょうか。
AIを使うときは、「自分の時間が減ったか」だけでなく、「相手の時間も減ったか」「これを渡すことで、相手の負担にならないか」まで考えてみる。
AIを仕事で使うときは、そんな視点も持っておきたいと思います。